2017年2月11日更新

ニュース

29歳のFTMが自殺、その背景と報道した各新聞社の対応

The following two tabs change content below.
熊野海斗

熊野海斗

戸籍変更・SRS(内摘・尿道延長)済の30代FTMゲイです。トランスとしての体験談に加え、FTMゲイという観点から、性指向の問題についても執筆していこうかと思います。

29歳のFTMが、性同一性障害の告白をきっかけに会社から退職強要を受け、自ら命を絶ったという事件がありました。
「この体が嫌なんよ」胸かきむしり嗚咽、命絶った我が子
この記事では、FTMの方の死亡後に行われている裁判のことも書かれています。
しかし、同じFTM当事者として最も印象に残ったのは、なにより「優子さん」というこのFTMの人が死ぬまで追いつめられた苦しみです。
そのことに着目して、この記事に関する私の思いを書いてみたいと思います。

他のライター記事:GIDを理由に職場を解雇され自ら命を絶ったFTMとその母の想い

8年前の29歳

29歳のFTMといっても、それは8年前の出来事だということに気を付ける必要があるでしょう。
つまり生きていれば、この方は37歳で、34歳である私より年上になります。
それは若いころに、今より格段に情報がなかったということを意味します。
私が「性同一性障害」という言葉を初めて知ったのは13歳のときです。
インターネットが使えるようになったのは高校生の頃です。
GID特例法で性別が変えられるようになったのは21歳のときです。
LGBTなどという言葉が広まりだしたのは、ここ数年のことにすぎません。
この記事によると、優子さんは学生時代はスカートの制服を着て、成人式で振袖を着て、女性として就職し、母親は「性同一性障害とは気がつきませんでした」と言っています。
優子さんが「性同一性障害」という言葉を知ったのがいつなのかはわかりません。
しかし、その言葉を知らないまま、説明のつかない性別への違和感と苦痛に苦しむ期間があったことは想像できます。
そして、GID特例法ができ、男として生きていくということが現実味を帯び始めた頃には、すでに社会人になっていたのだろうということです。
そこから治療などを開始し、男として生きることをスタートするのは、とても困難を伴うことです。
「女として生きるのも男として生きるのも、精神的にも肉体的にも生き辛(づら)いのには変わりがないので」という言葉の重みは、8年前であり、現在の30代後半の世代であるという文脈から読み取らなければならないものです。

性同一性障害と自殺

実際に自殺に至らないまでも、GIDの人が自殺を考えることは珍しいことではありません。
自殺総合対策大綱改正に向けての要望書(GID学会)

これを見ると、多くの当事者が自殺念慮を持っていた時期があり、自殺未遂にまで至った人もいることがわかります。
さらにいえば、これは岡山大学ジェンダークリニック受診者のデータなので、「受診できない」当事者は、もっとひどい状況にあることも推測されます。
私自身も、自殺念慮を持っていた当事者の一人であり、今でもその思いに襲われることがあります。
私の場合、自殺という考えが頭をよぎるとき、そこにあるのは人生への「絶望感」といえるものです。
単に状況が苦しいだけなら、それを乗り越えたリ改善するという希望があれば、そう簡単に死という考えには結びつかないと思うのです。
しかしその希望を打ち砕いてしまうものが「うつ」です。
優子さんの場合も、「うつ病」を発症し、それから自殺に至ったことが記事に書かれています。
うつ病になってしまうと、精神的にも身体的にも、エネルギーがなくなってしまい、したがって困難に打ち勝とうとする気力がなくなり、そもそも困難を改善する手段すら、目に入らなくなってしまいます。
それは絶望を引き起こします。
うつ病の原因ははっきりとしていませんが、遺伝的要因、環境的要因、心理的な発達が影響しているとされています。
GIDの人の場合、幼いころからストレスにさらされ続け、社会生活においても困難にぶつかることが多いです。
なので、うつ病のリスクが高くなることは予想できるでしょう。
優子さんは、幼いころから性別に対する違和感に苦しみ続け、「天性の仕事」と思えるような職場においてすら、存在を受け入れてもらえませんでした。
そのときの彼の絶望感を思うと、とても悲しく、やりきれなさを感じます。

おわりに

この出来事について、毎日新聞や産経新聞のサイトでは、このFTMのことを「女性」と表記している記事があります。
性同一性障害女性のうつ病自殺、労災認めず 広島地裁

山口・性同一性障害女性 うつ病、自殺巡り労災認めず

しかし冒頭の朝日新聞サイトの記事では、「女性」と表記していないことに気付かれましたか。
「性同一性障害者」「優子さん」と書いています。
もちろん他の記事は、単に裁判のことを報道しているだけで、朝日新聞の記事では、母親の思いが中心となっているという違いもあります。
「みんな違ってみんないい。みんながそう思える社会だったら優子は受け入れられていたのかもしれない。自分の生きたい性で生きられる社会になってほしいと思います。」
という優子さんの母親の言葉。
その思いの実現のためには、「他人に自分の性別を(とくに望まぬ性別を)決めつけられない」ということが大切でしょう。
そのことをまさに実践した冒頭の記事から、私は社会に対して少し希望を感じました。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でGIDnaviをフォローしよう!

The following two tabs change content below.
熊野海斗

熊野海斗

戸籍変更・SRS(内摘・尿道延長)済の30代FTMゲイです。トランスとしての体験談に加え、FTMゲイという観点から、性指向の問題についても執筆していこうかと思います。

*記事は各ライター個人の体験談や考えでありGID当事者全員の考えを表しているものではありません。
またその内容によって特定のセクシャリティーを差別するものではありません。
*治療などの医療行為は医師にご相談ください。

医療保険・生命保険に興味はありますか?

View Results

Loading ... Loading ...

この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

GID保険

人気コラム

  • 本日
  • 週間
  • 月間
  • 殿堂

本日の人気記事

週間の人気記事

月間の人気記事

殿堂の人気記事

おすすめのコラム

新着コラム

お知らせ

カテゴリー

気に入ったらシェアお願いします

うちのダンナがかわいすぎる
Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.