2017年6月14日更新

ニュース

LGBT教育について、新学習指導要領とNPO教材

The following two tabs change content below.
熊野海斗

熊野海斗

戸籍変更・SRS(内摘・尿道延長)済の30代FTMゲイです。トランスとしての体験談に加え、FTMゲイという観点から、性指向の問題についても執筆していこうかと思います。

学校の保健体育で「異性への関心を持つのは自然」というように習った覚えはありませんか。
このような記述をなくし、性的少数者について、新しい指導要領に盛り込むよう求める意見がありました。しかし、文科省は「LGBTを指導内容として扱うのは、保護者や国民の理解などを考慮すると難しい」と して、上記のような記述を残したままの新学習指導要領を3月31日付官報で告示しました。

中学武道に銃剣道を追加 体育で「異性への関心」は残る

一方で、特定非営利活動法人ReBit(リビット)が、中学教員向けにLGBT教材の無料配布を始めたというニュースがありました。

中学教員向けLGBT教材キット、NPOが無料配布

今回は教育現場における、性的少数者についての知識について考えてみたいと思います。

文科省の資料を読んでみた

文科省は「性同一性障害や性的指向・性自認に係る、児童生徒に対するきめ細かな対応等の実施について
という通知を平成27年に出しており、職員向け資料も公開しています。
この資料によると、性自認や性的指向に関する学校教育について、

他者の痛みや感情を共感的に受容できる想像力等を育む人権教育等の一環として、性自認や性的指向について取り上げることも考えられますが、その場合、特に義務教育段階における児童生徒の発達の段階を踏まえた影響等についての慎重な配慮を含め、上記の性に関する教育の基本的な考え方や教育の中立性の確保に十分な注意を払い、指導の目的や内容、取扱いの方法等を適切なものとしていくことが必要です

とあり、ダメとは言っていませんが、何となく消極的なニュアンスを感じます。
そして、この通知全体から「あくまでもシスジェンダー・異性愛が正常であるけれど、正常ではない性的少数者の生徒にも配慮してあげましょう」みたいな考えが見えます。
その考えに従えば、今回の指導要領の内容、つまり「異性への関心」は残しLGBTは指導しないというのは、当然の帰結かなと思います。「正常」な異性愛は教えるけれども、それ以外の「異常」な性のあり方は、個別に対応すればよいという方針でしょう。

NPOのLGBT教材を読んでみた

「無料配布」されるという教材はReBitのサイトでダウンロードすることができるので、誰でも読むことができます。
特定非営利活動法人ReBit
中学の教員であれば、申し込めば無料で、これの製品パッケージをもらうことができます。
ただし、冒頭記事の「無料配布」というのは、実際には次のような仕組みです。この活動に賛同した人が、1つ4320円払って寄付します。すると、その分が、教材を希望する中学の教員に無料で届く仕組みです。だから「NPOが無料配布」という記事の書き方は、誤解を招くものですね。

この教材キットの内容を読んでみました。
その正直な感想を言います。
作った人たちには申し訳ないけれど、安易にこれを使って教員にLGBTの授業をしてほしくありません。理由は、教育を行う側が読むものとして、あまりに不十分だからです。
知識が不十分な指導者が生徒に指導して、本当に良い効果が得られるでしょうか。下手をすれば、かえって悪い結果を招くことも予想されます。

小中高校の教員は、教科を指導するにあたって、生徒の何倍、何十倍の知識を持っていますよね。当然、小学校から高校までの知識の積み重ねがありますし、中高教員だと、教科に関連する専門科目を大学で勉強しているはずです。だからこそ指導ができるわけです。たとえば、中学2年生の生徒は、中1英語の学習内容の知識はあるはずですが、中1の生徒を教えることは困難であり、したとしても不十分な指導になるはずです。中卒レベルの英語知識しかない教員が、中学の英語教員にはなれないと言い換えてもいいでしょう。
このキットはそういうレベルだと私は思います。

生徒にこの内容の授業をするとすれば、数百ページの教員用テキストがプラスで必要だと思います。参考文献も、このような入門書ばかりではなく、医療や法律、ジェンダー、セクシュアリティ論やクイア理論、ゲイ・レズビアンスタディーズ等様々な分野から、論文や専門書を含めて載せるべきでしょう。

FTMゲイ当事者として思うこと

自分は作りもしないのに、頑張って作られたであろう教材の批判ばかりして申し訳ないです。
でもFTMゲイ当事者の自分としては、中学生の自分が、この教材を使った安易な授業を受けたらと考えると怖いのです。
教員が不十分な知識で、生徒から予想外の質問を受けたとき、誤った、あるいは不適切な回答をしてしまわないでしょうか。また、その場はいったん保留として、後で調べるという方法をとったとして、調べるべき適切な文献がわかるでしょうか。

私は中学時代受けた「人権教育」で、あまり知識がない先生が、適当な発言をしているのを聞きました。その授業を受けた生徒は、授業内の作文では「差別はいけない」などと、だいたいは書きます。でも授業後には、「面倒くさい授業」と言ったり、その授業の内容について馬鹿にして笑ったりしていました。
私は、安易なLGBT教育などというものが行われると、そのようなことが起こり、余計に当事者生徒を傷つける結果にならないかが心配です。

ですから、文科省の消極的な姿勢にも、擁護すべき余地があると思います。現状で適切な指導ができないため、教えられないからです。もちろん「異性への関心」を残した点については批判したいですが。

さいごに

私は、性自認や性的指向に関する教育をすることを否定していません。むしろそれが適切に行われるなら、望ましいと思っています。
しかし、現在それを適切に行うのは非常に困難だと思います。なぜなら、LGBT講師などと呼ばれる人の研修でさえ、その人によって異なったことを言っていたり、おかしなことを言っていたりもします。

苦しむ子どもたちの助けになりたい、子どもたちが過ごしやすい社会にしたい。そういう思いは大切だと思います。
だけど、思いだけでは人は救えません。病気で苦しむ人を救いたいとどれほど強く思っても、知識がなければ適切な治療はできません。不十分な知識で適当な薬を出したり、適当に手術すれば病気は悪化し、下手すれば死ぬでしょう。救いたければ、十分な医学的知識が不可欠で、そのために医師は医学部で6年間勉強して研修もするのです。

性のことに関しても、学校で教育をするなら、まず、生徒に教える何倍もの知識を伝える教員向けのテキストが必要でしょう。そして、それを作る人は、さらに何倍もの知識を得なければならないことは、言うまでもありません。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします

Twitter でGIDnaviをフォローしよう!

The following two tabs change content below.
熊野海斗

熊野海斗

戸籍変更・SRS(内摘・尿道延長)済の30代FTMゲイです。トランスとしての体験談に加え、FTMゲイという観点から、性指向の問題についても執筆していこうかと思います。

*記事は各ライター個人の体験談や考えでありGID当事者全員の考えを表しているものではありません。
またその内容によって特定のセクシャリティーを差別するものではありません。
*治療などの医療行為は医師にご相談ください。

医療保険・生命保険に興味はありますか?

View Results

Loading ... Loading ...

この記事を読んだ方はこんな記事も読んでいます

GID保険

人気コラム

  • 本日
  • 週間
  • 月間
  • 殿堂

本日の人気記事

まだデータがありません。

週間の人気記事

まだデータがありません。

月間の人気記事

まだデータがありません。

殿堂の人気記事

おすすめのコラム

まだデータがありません。

新着コラム

お知らせ

カテゴリー

気に入ったらシェアお願いします

うちのダンナがかわいすぎる
Copy Protected by Chetan's WP-Copyprotect.